経営情報学会 1997年秋季全国研究発表大会 予稿集
山本 仁志,太田敏澄
要旨:近年の情報技術の発達によって、インターネットを中心としたネットワーク上に、新たな仮想的な社会(サイバー・コモンズ、情報空間社会)が出現している。そこには、企業などが構築するヴァーチャルモールと呼ばれるような、中央に管理機構の存在する社会や、自己生成的に発達、推移するニューズグループ等の自律分散的な社会がある。これらの社会は、急速に出現、発達したため、どのような特性をもつか、仮想的社会が内包する問題点、そして、社会を運営して行く上で必要となるルールや社会システムなどは十分に議論されていない。それらの問題点を解決するために、サイバー・コモンズをモデル化しシミュレートすることで、社会の特性をあきらかにし、サイバー・コモンズを構築、運営するために必要となるシステムを提案することは重要な課題である。本研究では、環境問題のモデルとして議論されている「社会的ジレンマ」を情報空間社会に拡張し、サイバー・コモンズにおける環境問題として議論を進める。Hardin(Hardin,G.(1968))は人口問題には、技術革新による解決手法は存在せず、社会の道徳性の延長が必要であると述べている。これは、社会システムにおいて、個人-個人、個人-社会、間の相互作用による、個人の意思決定の影響が、いかに重要であるかを示しているといえる。先の研究(山本(1997))において、環境問題における社会的ジレンマ問題を、主体間相互作用を考慮したモデルとして構築し、個人の意思決定基準の差が社会全体のアウトプットに対して、非常に大きな意味を持つことを示した。しかし、現実の環境問題だけでなく、情報技術、ネットワーク技術の発展により急速に発展してきた情報空間社会(仮想社会、人工社会、サイバースペース、等と呼ばれることもある)においても社会的ジレンマは大きな問題となると考えられる。そこで本小論においては、近年出現した、新たな社会といえる、仮想的な情報空間社会における社会的ジレンマ問題に取り組む。ここで、情報空間社会における社会的ジレンマ状況をモデル化し、シミュレーションを行うことで、その構造の解明と解決手法について、社会の規模と複雑性の観点からの提案を行う。